15世紀から
16世紀頃のドイツに実在したと言われる
ドクトル・ファウストゥスの伝説を下敷きにして、ゲーテがほぼその一生をかけて完成した畢生の大作である。このファウスト博士は、
錬金術や
占星術を使う
黒魔術師であるという噂に包まれ、
悪魔と契約して最後には魂を奪われ体を四散されたという奇怪な伝説、風聞がささやかれていた。ゲーテは子供の頃、旅回り一座の人形劇「ファウスト博士」を観たといい、若い頃からこの伝承に並々ならぬ興味を抱いていた。そうしてこうした様々なファウスト伝説に取材し、彼を主人公とする長大な戯曲を仕立て上げた(なお、主人公の名前は「幸福な、祝福された」を意味する
ラテン語のに由来する。ドイツ語で「拳骨、砲」を意味すると一致するが、偶然の一致にすぎない)。
天使たち(
ラファエル、
ミカエル、
ガブリエル)の合唱とともに壮麗に幕開けられた舞台に、誘惑の悪魔
メフィストーフェレス(以下メフィスト)が滑稽な台詞回しでひょっこりと現れ、主(
神)に対してひとつの賭けを持ちかける。メフィストは「人間どもは、あなたから与えられた
理性をろくな事に使っていやしないじゃないですか」と揶揄し、主はそれに対して「常に向上の努力を成す者」の代表としてファウスト博士を挙げ、「今はまだ混乱した状態で生きているが、いずれは正しい道へと導いてやるつもりである」と述べる。メフィストはそれを面白がり、ファウストの
魂を悪の道へと引きずり込めるかどうかの賭けを持ちかける。主は、「人間は努力するかぎり迷うもの」と答えてその賭けを容認し、かくしてメフィストはファウストを誘惑すべく、地上に下ってゆくのであった。
皇帝に仕えることにしたファウストは、メフィストの助けを借りて経済再建を果たす。その後、絶世の美女
ヘレネーと美男
パリスを求め、
ギリシャ神話の世界へと、
人造人間ホムンクルスやメフィストとともに旅立つ。ファウストはヘレネーと結婚し、一男をもうけるが、血気にはやるその息子は死んでしまう。現実世界に帰ってきた後ファウストは皇帝を戦勝に導き、報土をもらう。海を埋め立てる大事業に取り組むが、灰色の女「憂い」によって失明させられる。そうしてメフィストと手下の悪魔が墓穴を掘る音を、民衆のたゆまぬ鋤鍬の音だと勘違いしながら死ぬ。その魂は、かつての恋人グレートヒェンの天上での祈りによって救われる。